災害時のオーラルケアについて

災害がおこった際には、ほとんどの場合において水が不足しがちな状態になり、どうしても歯磨きを始めとしたオーラルケアがおろそかになります。
日本人は約8割以上の方が歯周病をわずらっているとされていますが、歯周病の原因となる歯周病菌はたった一晩歯磨きをしないだけでも細菌がどんどん増えてしまいます。
これにより、歯周病を発症するリスクが高まるだけではなく、たとえば、お口の中が不衛生な状態で食事をすることによって細菌が肺に入ってしまう「誤嚥性肺炎」などをひきおこす可能性も高くなります。
誤嚥性肺炎は特に体力の弱った高齢者の方は注意が必要な病気であり、重症化すると命を落とすケースも少なくありません。
1995年に発生した阪神淡路大震災では200名以上の方が肺炎で亡くなられていますが、その大部分は誤嚥性肺炎によるものと考えられています。
今回は、生死を左右することもある「災害時のオーラルケア」について詳しくお話をさせていただきます。

歯ブラシセットの写真

■災害時にこそ気をつけたいオーラルケア

●風邪、インフルエンザ

「避難時は大変なことが多く、歯磨きどころじゃない」

たしかに、災害が発生したあとの避難生活では歯磨きをする余裕をなかなか持つことができないのも事実です。
しかし、お口は肺の入り口であり、上で述べたように歯磨きをおろそかにすると歯周病や誤嚥性肺炎のリスクが増してしまうほか、集団生活でかかりやすくなる風邪やインフルエンザも歯磨き不足によって発症リスクが上がることが明らかになっています。
歯磨きをしないことがなぜ風邪やインフルエンザのリスクを高めてしまうかと言うと、お口の中にひそむ細菌類はのどの粘膜を保護しているたんぱく質を破壊する性質を持っているため、歯磨きをせずにいると口腔内の細菌が増殖してのどの粘膜が破壊されてしまい、その結果、普段はせきやたんをだすことでウイルスや細菌の侵入を防いでいるのどが正常に機能しなくなり、風邪やインフルエンザにかかりやすくなってしまうのです。

●糖尿病、高血圧

一見するとお口の衛生状態と糖尿病や高血圧は無関係のように見えますが、お口の病気である歯周病は糖尿病と高血圧を悪化させるおそれがあることが指摘されています。

[歯周病が糖尿病や高血圧を悪化させるメカニズム]

・糖尿病と歯周病の関係

1.歯周病菌が歯ぐきの血管の中に入り、血液に混ざって全身をかけめぐる
2.血液に侵入した歯周病菌が血糖をコントロールしているインスリンの働きをさまたげてしまい、糖尿病の症状が悪化する。

・高血圧と歯周病の関係

1.歯周病菌が歯ぐきの血管の中に入り、血液に混ざって全身をかけめぐる
2.血管内に侵入した歯周病菌が血管の内壁に炎症をおこす。
3.炎症が起きた血管の内壁が動脈硬化をおこして血圧が高くなり、心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクが上がる。

●虫歯

避難生活では歯磨きができない状況が続く上、決まった時間に食事をとることもむずかしくなります。
きちんとした食事がとりにくくなると、「とにかく栄養をとらなければ」ということでちょっとしたお菓子や果物など、間食をとる時間が増えてしまいます。
このため、お口の中が不衛生な状態になりやすく、虫歯にかかるリスクが上がってしまいます。

■災害時のオーラルケアの仕方

◎歯ブラシがないときのケア方法

避難所生活をしていて歯ブラシがないときには、食べものを食べたあとに30ml(ペットボトルのキャップ2杯分程度)ほどの水やお茶(砂糖を含まないもの)でお口の中をゆすぐようにしましょう。
また、ハンカチやティッシュペーパーで歯の表面の汚れをぬぐうようにして取るのも効果があります。

◎水が少ないときのブラッシングの仕方

①30ml程度(ペットボトルのキャップ2杯分)の水をコップに用意します。
②用意した水で歯ブラシを濡らし、歯磨きをします。
③歯ブラシがじょじょに汚れてくるため、ティッシュペーパーやウェットティッシュなどを使って歯ブラシの汚れをふき取りながら歯磨きを続けていきます。
④最後にコップの水をお口に含み、口の中をゆすいで歯磨きを終了します。
水をお口に含むときには1度に全部使うのではなく、2、3回に分けてすすいだ方がよりお口の中を綺麗にすることができます。

また、うがい薬、洗口液、液体ハミガキなどがある場合にはそれらを使ってブラッシングをするとより効果的にお口の中の衛生状態を保てるようになります。

◎唾液をだすことも重要

唾液にはお口の中の汚れを落とす自浄作用や、歯を虫歯から守る再石灰化を促進する働きがあります。
災害時には唾液の分泌をうながすため、できるだけこまめに水分をとることを心がけるとともに、口呼吸ではなく鼻で呼吸をしてお口の中が乾燥するのを防ぐようにしましょう。
また、あごの付け根部分を指でもむようにマッサージしたり温めたりすることで唾液腺が刺激され、唾液がでやすくなります。
さらに、キシリトールなど砂糖を含まないガムをかむことも唾液をだすのに効果があります。

【日ごろのオーラルケアを通じて万が一に備える】

「災害時のオーラルケア」についてお話をさせていただきました。

私たちが当たり前のように行っている毎日のブラッシングも、ひとたび災害がおこればまともに歯を磨くことすら困難になってしまいます。
ややもすれば「めんどくさい」「手間がかかる」などの理由でついついさぼりがちになってしまう歯磨きですが、自分自身がもし災害に遭ったときのことを思えば、ふつうに歯を磨ける、ということがどれだけありがたいことなのかを認識できるようになります。
これからは、どこか片隅でもかまいませんので、頭の中で常に「災害時にどのような方法でオーラルケアをするのか」を意識しながら歯磨きを行うことを心がけ、日ごろのブラッシングを通して万が一のときに備えるようにしましょう。

歯の予防について詳しくはこちらもご覧ください。


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わかば歯科クリニック 理事長 板野 賢

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