消毒と滅菌の違い

歯科治療の現場においては、治療中に患者さんの唾液や血液などの体液が器具にふれることも多く、消毒や滅菌がとても重要になります。
では、なぜ消毒したり滅菌する必要があるのでしょうか?
また、歯科医院ではどのような感染症対策が行われているのでしょうか?
今回は「消毒と滅菌の違い」および「日本の歯科医院で行っている感染症対策」についてご説明をさせていただきます。

手を消毒している写真

■「消毒」と「滅菌」の違い

私たちの日常生活でも耳にすることが多い「消毒」「滅菌」。
これらの言葉にはそれぞれに違いがあります。

○「消毒」・・・各種の細菌の活動を弱める

人体に害がある物質を取り除いたり、無害化すること。

○「滅菌」・・・すべての細菌を殺して死滅させる

増殖する性質を持つすべての種類の細菌や微生物(ウイルスなど)を殺して死滅させる、または取り除くこと。

なお、「殺菌」には以下のような意味があります。

○「殺菌」・・・特定の細菌を殺して死滅させる

有害性や病原性がある細菌や糸状菌、ウイルスなどを殺して死滅させること。

■日本の歯科治療の現場では・・・

●感染対策が不十分な日本の歯科医院

感染症を防ぐためには欠かせない消毒や滅菌ですが、日本の歯科医師1000人を対象にして行ったアンケート(※)結果では、回答した700人のうち、「患者ごとに手袋を交換している」と答えたのはたった48%の歯科医師のみでした。
また、「歯を削る際に使用するドリルを正しい方法で洗浄・滅菌している」、と答えたのは全体の64%、「ドリルを取り付ける柄の部分のハンドピースを患者ごとに交換している」と回答した歯科医師は全体の52%しかいませんでした。

この数字は驚くべきものであり、アンケートは日本の歯科医療の現場における「感染症対策の不十分さ」を浮き彫りにする結果となりました。

(※ 2016年度 東北大学「歯科ユニット給水システムの開発に関する研究」より)

●なぜ日本の歯科医院は器具を交換しないのか

上記のアンケート結果のように、日本では多くの歯科医院がいまだ感染症対策が不十分な状態である、と言わざるをえません。
では、なぜ日本の歯科医院は感染症対策に欠かせない器具の交換を行っていないのでしょうか。
その理由は、滅菌装置が高額なことや、複数の治療器具を用意しなければならず導入コストがかさんでしまう、など、「コストがかかるため感染症対策をおろそかにしている」ことが原因なのではないか、と考えられています。
しかし、いくらコストがかかるから、とは言え、感染症対策を行わなかった場合、HIVやC型肝炎などを始めとする重篤な病気に感染してしまうおそれもあるため、「これからは日本の歯科医療の現場でも感染症対策を万全にしなければならない」、との声が歯科業界の関係者の間で上がり始めています。

■アメリカの歯科医院で発生したHIV感染事例

●「キンバリー事件」(1987年 アメリカ・フロリダ州)

キンバリー事件とは、1987年にアメリカのフロリダ州でおきたHIV感染事件です。
当時19歳だったキンバリー・リーガスさんという女性が歯科治療中に歯科医師のデイビット・アーサー氏からHIVをうつされてしまったのです。
その後キンバリーさんは感染から4年が経った1991年12月に治療のかいもむなしくHIVにより亡くなってしまいました。
キンバリーさんは敬虔なクリスチャンで性交渉の経験がなく、歯科治療をのぞけばHIVに感染した理由が特に見あたりませんでした。
このため、キンバリーさんはハンドピースやドリルなどを交換しておらず、感染症対策が不十分だったアーサー氏の歯科医院で治療を受けたことが原因でHIVをうつされたのではないか、と考えられています。
キンバリー事件では、アーサー氏の歯科医院で治療を受けたキンバリーさん以外の6人の患者もHIVに感染していたことが明らかになっています。

このほか、アメリカでは2013年にオクラホマ州の歯科医院で治療を受けた複数の患者がHIVやC型肝炎に感染した事件が発生しており、日本のみならず海外の歯科治療の現場においても感染症対策の不備が社会的な問題となっています。

■日本の歯科医院で行っている感染症対策

感染症対策が不十分なことが指摘されている日本の歯科医療ですが、近年では以下のような消毒・滅菌機器を導入する歯科医院も増えてきています。

◎オートクレーブ(高圧蒸気による滅菌)

高圧の蒸気の力を使い、器具を無菌状態になるまで滅菌します。

◎ハンドピースやドリルの交換

歯を削る際に使うハンドピースやドリルを患者さんごとに交換します。

◎手袋の交換

治療中には歯科医師の手に唾液や血液がふれることがあるため、手袋も患者さんごとに交換します。

◎ホルマリンガス(ガスによる滅菌)

オートクレーブでは滅菌できない機器はホルマリンガスを使って常温・常圧で処理を行います。

◎高水準の消毒液による滅菌

ほぼすべての細菌やウイルスを死滅できる消毒液を使い、滅菌処理を行います。

◎口腔外バキューム(粉塵や飛沫の処理)

治療中に患者さんのお口の中からでる飛沫や粉塵を口腔外で吸い込んで処理します。

◎ディスポーザブル(使い捨て製品の利用)

お口をすすぐ紙コップやトレー、エプロンなどは使い捨て製品を利用して感染症対策を行います。

【感染症対策が万全な歯科医院を選びましょう】

まだまだ感染症対策が十分とは言えない日本国内の歯科医院ですが、安全に治療を受けるためには事前に歯科医院に問い合わせをして「感染症対策を行っているかどうか」を確認しておくことをおすすめします。

もし、電話でたずねるのが気が引けるようであれば実際に歯科医院を訪れ、「外来環(がいらいかん)」(歯科外来診療環境体制加算)の施設基準を満たしているかどうか、を院内・院外の掲示物などを見て確認する、という方法もあります。
歯科外来診療環境体制加算の施設基準を満たしている歯科医院は院内の感染症対策や安全体制をしっかり整えていることが地方厚生局によって確認されていますので、外来環を取得している歯科医院であれば治療中に細菌やウイルスに感染するリスクは低くなります。
ぜひ、歯科医院選びの基準として参考にしてみてください。

当院での滅菌対策について詳しくはこちらもご覧ください。


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わかば歯科クリニック 理事長 板野 賢

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